2015年07月26日

心と脳の白熱教室|第1回楽観脳と悲観脳

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心と脳の白熱教室
第1回楽観脳と悲観脳


イギリス・オックスフォード大学
エレーヌ・フォックス教授

フォックス教授の研究テーマは、楽観主義と悲観主義です。危機に直面して前向きに生きる人がいる一方で、過去を思い悩み続ける人もいます。教授は、その違いの原因を人の脳に見いだしました。最新の脳科学と認知心理学を掛け合わせ楽観と悲観の秘密を紐解いていきます。

初回の講義では、なぜある人は楽観的である人は悲観的なのかという問いを投げかけます。そしてこの違いの根底にある脳の回路を理解するため、脳の働きを掘り下げます。

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楽観脳と悲観脳
なぜ前向きな性格と後ろ向きな性格があるのか、フォックス教授はこれを脳の働き、楽観脳と悲観脳にあると分析します。サニー・ブレイン(楽観脳)とは、ポジティブで楽観的な考え方を促す脳の仕組みを晴れ空に例えたものです。一方、レイニー・ブレイン(悲観脳)とは、ネガティブで悲観的な心の動きを生む仕組みを雨空に例えたものです。今回は悲観主義に考察しながら、悲観主義が時にはプラスに働く時もあることを見ていきます。

認知バイアス
私たちは脳の回路のできかたの違いで物事をネガティブにとらえる人とポジティブにとらえる人がいるのです。心理学者はこれを認知バイアスと呼んでいます。

認知バイスとは、自分の思い込みや願望、恐怖心などのために論理的な判断を下せなくなる心理パターンのことです。状況をどう解釈し、どう受け止めるかによって同じ事象がまったく違って見え、それが人それぞれの性格に影響していきます。

代表的な4つの認知バイアス
認知バイアスの中でも代表的なバイアスが4つあります。自分をどう評価するかを示す帰属の誤り、何に注意を振り向けるかを示す注意のバイアス、同じ出来事をどう解釈するのかを示す解釈のバイアス、そして人生のさまざまな出来事のうち何を記憶にとどめるかを示す記憶のバイアスです。

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帰属の誤り
物事の原因をどう自分に説明するかというバイアスです。何か願い通りにならないことがあるとします。試験で落第したとか欲しいものが手に入らない、たとえば誰かをデートに誘ったが応じてくれない、人によってそこに見いだす理由は異なります。自分に問題があったのか、他に何か問題があったのか、こうした意味づけによって人生の見方には大きな違いが生じます。

試験に落ちた場合、健康的で楽観的な人であれば、あのテストは難しかったから落第したんだと考えます。ところが極度に悲観的な人は、人生は何をしても大変だし試験もみんな大変だと考えやすいのです。

注意のバイアス
私たちの注意は無意識のうちに引きつけられます。その例としてある古典的な検査があります。ストループ・テストです。

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人がポジティブ思考かネガティブ思考かを調べるために単語を並べます。単語にはポジティブな単語とネガティブな単語があり、それらの単語の色を被験者に言ってもらい、その反応時間を測定します。

ストループ・テストの典型的な実験結果では、楽観的な人の方が、ポジティブな単語の色を言うとき、ネガティブな単語の色を言うときに比べて、少しだけ長く時間がかかります。一方で悲観的な人は、ネガティブな単語の色を言うときに、長く時間がかかります。もっともその差はミリ秒単位ですから普通は気がつきませんが、脳内部では時間の差があります。

その理由は、悲観的な人の場合、ポジティブな単語よりもネガティブな単語に反応するため、干渉が邪魔をして反応時間が長くなるためです。逆に楽観的な人はポジティブな単語に反応するのでこちらも干渉が邪魔をして反応時間が長くなります。これをストループ干渉と呼んでいます。

記憶バイアス
1週間の日記実験

被験者に1週間の出来事で楽しかったこと、不快だったことについて日記を書いてもらいました。そこでわかったことは強力な記憶バイアスがかかっていることでした。日記を読み返したときに忘れていることがよくありました。たとえば、偶然友人と会ってお茶をしたということなどです。抑鬱度の高い被験者はこの種のことを忘れる傾向にありました。記憶にバイアスがあることを知ることは、被験者にとってプラスになります。

実験からもうひとつ分かったことは、日記を書くことによって良いことと悪いことを意識的に探すようになったことです。それが注意バイアスを転換するきっかけとなりました。良いことに注意を向け始めるとやがてよりポジティブな出来事に気づくようになります。

認知バイアス
ネガティブな人を変える方法

ロンドンに住んでいたある人の話です。彼は非常にネガティブですべては最低でニュースも悪いことばかりで、実際何も良いことは起きないと言っていました。

こういったときにどうやって状況を変えるかというとまず地下鉄のホームに座って幸せそうな顔を探します。たくさんの不幸そうな顔を無視して、微笑んだり、笑ったりしている、幸せそうな顔だけを探します。日常生活におけるこのような出来事に目を向けることによって否定的な出来事に心を奪われることなく、意図的に肯定的なものを見ることが可能になります。つまり、認知バイアスが重要だということです。起こったことをいかに解釈するか、一つの物事を他の物事よりもいかに良く記憶するか、こうしたことが全て私たちの性格が形づくられる上で非常に重要なのです。

数百年前にシェイクスピアが言った言葉ですが、”ものの善し悪しは考え方ひとつで決まる”という言葉があります。わたしたちには、良いことや悪いことが起こっていますが、それらをどう解釈するかが大切なのです。シェイクスピアは、心理学や脳科学でわかってきたことが、ずいぶん昔にわかっていたのです。

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脳のはたらき

脳が意識を向ける恐怖と快楽
なぜ人によってネガティブなバイアスを形成したり、ポジティブなバイアスを形成したりするのでしょうか?私たちの脳が意識を向けているのは、2つ大きな情報のカテゴリーです。

ひとつはわたしたちに害を与える恐怖のシステムです。もう一つは、わたしたちにとって心地よい快楽のシステムです。これらは楽観主義と悲観主義の根本的な違いの根底にあるものです。

わたしたちは皆、恐怖の脳をもっていますし、快楽の脳をもっています。しかし、人によって反応するスピードが異なります。人によってより敏感な恐怖のシステムを持ち、より敏感な快楽のシステムを持つひともいます。

わたしたちに必要なのは、二つのよいバランスです。恐怖のシステムが必要な理由は、危険を察知することができるからです。同様に快楽のシステムは人生を生き延びるために必要です。

進化の過程で得た3つの脳
ポール・マクリーンという進化生物学者によれば、人間の脳は進化の過程で3つの層に分けられます。もっとも早く形成された脳幹の部分は、生存の脳とも呼ばれ、生物としての生存にかかわる呼吸や体温調節を司ります。

次に古いのが人間の感情を司る感情脳、進化の過程で最後に獲得したのが、論理的思考を可能にする思考脳です。こうした脳の3つの働きは、それぞれ脳内の領域と大きな関わりがあることがわかっています。

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感情脳に大きな影響を及ぼすのが、扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる神経細胞の集団と即坐核(そくざかく)という集団です。思考脳に働きかけるのが、前頭連合野です。

扁桃体は、脳の警告ボタンで脳の中央部分にあります。ほとんどの動物にある恐れの検知器のようなものです。脳の歴史の中でかなり古いものです。

即坐核は、脳内の喜びを感じる部分でドーパミンという物質で満たされています。楽しいことや心地よいことにわたしたちの関心を向けてくれます。

前頭連合野は、ブレーキをかける役割をします。実際には危険ではなくてもアラームが鳴るときがあります。そんなときに思考を担う前頭連合野がブレーキをかけるのです。

悲観脳の回路は、扁桃体が危険を察知すると脳の他の部分にすべてを止めて注意しろと司令を出すことです。一方の楽観脳の回路ですが、即坐核で喜びを感じ、前頭連合野がブレーキをかけて調節をします。

悲観脳と楽観脳の回路はどちらも同じように働きますが、悲観脳の方がその働きが強いのです。喜びよりも危険を察知する方が重要なためです。そのため、恐れのシステムは常に強めになっているのです。

恐怖のシステムのプラス面
恐怖のシステムには、良い面と悪い面があります。人は恐怖のシステムは、ネガティブに向かわせるので、取り除いた方がよいと考えがちですが、恐怖のシステムが存在する十分な理由があることを忘れてはなりません。それは、危険を感知し、可能な限り安全に守っていることです。

恐怖はわたしたちの周りに渦巻いています。メディアは否定的なニュースで満ちあふれ、人々はときになぜ良いニュースはないのかと不満を漏らします。

ニュースが、否定的なものばかりなのは、理にかなっています。なぜなら悲観脳は楽観脳より常に若干強いため、否定的なニュースは注目を集めるのです。問題はこのためにネガティブなバイアスが強まってしまうことです。

もし、恐怖のメカニズムがなかったら
恐怖のメカニズムの基盤となる扁桃体を手術で完全に切除された人がいます。つまり恐怖のメカニズムを持たない人がいるのです。ある女性にインタビューをしました。彼女はしばしば車の前に飛び出したりして夫を困らせていました。それは距離感がつかめないのではなく、恐れの感情がないことが原因でした。

またあるときは、自宅の暖炉で燃えている炭がカーペットの上に落ち、彼女は、すぐさま素手で炭をつかんで重度の火傷を負ってしまったのです。彼女は論理的には火傷をすることを理解していましたが、火傷を負う恐怖の感情がまったくなかったのです。

扁桃体が損傷した人に共通するもうひとつの特徴は、過剰に人を信頼しやすくなるということでした。暗証番号をすぐに教えてしまったり、世の中は素晴らしい人達だから、だまされるはずはないと考えてしまうのです。

このようにもし恐怖のメカニズムがなかったら大変なことになってしまいます。悲観脳には、わたしたちを危険から守るプラスの面があるのです。


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posted by CYL at 05:44 | 心と脳の白熱教室 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする