2015年06月30日

NHKスペシャル|錦織圭_頂点への戦い

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NHKスペシャル|錦織圭_頂点への戦い


2014年9月、全米オープンシングルスで日本人初の準優勝を成し遂げたプロテニスプレーヤーの錦織圭選手(25)。なぜ進化したのか……全米オープンで錦織選手が打ったすべてのボールの動きを記録したビッグデータを分析しました。その結果見えてきたのは、常識では考えられない前の位置からの攻撃”前で打つ”テニスでした。

しかし、いま錦織選手はトッププレーヤーになってはじめての試練に直面しています。ライバルたちが錦織選手のテニスを研究し、前で打つテニスを封じ込めに来たのです。


躍進|全米オープン
錦織圭の伝説は、全米オープンから始まりました。当時世界ランキング11位の錦織選手は、トップ10の選手たちを次々と破って勝ち進みました。世界ランキング6位のミロシュ・ラオニッチ選手、4位のスタン・バブリンカ選手、ともにフルセット4時間を超える激戦をものにしました。

そして迎えた準決勝、相対するのは世界ランキング1位ノバク・ジョコビッチ選手でした。誰もがジョコビッチ選手の勝利を予測した試合で、錦織選手はいままでに見せたことのないテニスでジョコビッチ選手を攻めました。そして、世界王者を破る大金星で、日本人選手初の準優勝を果たしました。

さらにその年のランキング上位8人で戦うツアーファイナルに初参戦することになったのです。錦織選手の躍進の陰には独自のテニススタイルの確立がありました。


トップ10の壁|マイケル・チャン
錦織選手がプロデビューしたのは17歳の時でした。身長178cmと世界のトップ選手の中では小柄ですが、天才肌のテニスでランキングを更新し続けました。テニスのランキングは年間の大会で稼ぐポイント数で決まります。錦織選手は2012年にトップ20に入りましたが、その後2年間にわたりトップ10の壁に阻まれていました。

その理由のひとつはパワー不足でした。コートの後方のベースラインでの打ち合いになると、小柄な錦織選手には不利となり、余計に走らされることで体力を消耗してしまいます。ときは、自分のテニスを見失いランキングで格下の選手にストレート負けをすることもありました。打開策を求めた錦織選手はマイケル・チャン氏をコーチに招きました。

マイケル・チャン氏は、史上最年少の17歳で四大大会を優勝し、世界ランキング最高位は2位の名選手でした。身長175cmと錦織選手よりも小柄ながら俊敏さを生かしてベースラインから打つストロークを得意としていました。チャンコーチは、パワー不足のためストロークで打ち負けてしまう錦織選手に新しいテニススタイルを授けることを考えました。

チャンコーチが求めたことは、ボールを打つ場所をベースラインの後ろから思い切って前に移す”前で打つテニス”でした。前に出ることで左右に大きく振られることなくボールを打ち返すことができます。

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ジョコビッチ戦の分析
全米オープン準決勝のジョコビッチ戦を分析することで見えてきたのが、ボールをどこで一番多く打ち返しているかの違いでした。

ジョコビッチ選手はテニスコートの一番奥に引かれたベースラインの後方1mから2mの間からボールを一番多く打っていることがわかりました。これは平均的な選手と一緒です。一方の錦織選手は、ベースライン付近(前後)からもっとたくさん打っていることがわかりました。チャンコーチの教え通り前で打つテニスを実践していたのです。

前で打つテニスには、錦織選手のパワー不足を補うだけではなく、攻撃面でのメリットもわかりました。ベースラインから離れてボールを打つよりも、ボールを早いタイミングで打ち返すことによって、相手の準備の時間を奪い、プレッシャーをかけることができるのです。

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ライバルたち|錦織封じ
今シーズン最初の四大大会「全豪オープン」準々決勝で、世界ランキング4位のバブリンカ選手と再び対戦しました。試合のデータからバブリンカ選手が周到な作戦を立てて錦織戦に望んだことがわかりました。バブリンカ選手が打ち込んだボールの落下点を調べてみるとフォアハンドのライン近くにボールが集中していました。その狙いはコートの外へ錦織を誘いだし、錦織の前で打つテニスを封じることでした。作戦は功を奏しバブリンカ選手がゲームをものにしました。

マドリードオープンの錦織選手と対戦する世界ランキング3位のマレー選手は、試合当日、錦織対策のためにある練習を行っていました。それは深い位置のコーナーぎりぎりを狙ったサーブ練習でした。その日の試合ではサーブに追いつくことが精一杯だった錦織選手は前で打つテニスを封じられストレート負けを喫しました。

マレー選手の作戦にはある秘密がありました。試合をさかのぼること1ヶ月半前、錦織選手とマレー選手が練習をする機会がありました。このとき、マレー選手はデータ会社に依頼して細かく練習のデータを分析したことがわかりました。錦織選手のリターンの傾向を調べ返しにくい場所を調べていたのです。

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さらに上をいく対抗策
サーブ対策

チャンコーチは、錦織の弱点を戦略的に攻めてくる相手の上をいく対抗策を考えていました。まずはリターンしにくいボールにすぐに反応できるようにする特訓でした。チャンコーチ自らが通常のサーブポイントよりも3mも前からサーブを打ち込んでいきます。角度とスピードをつけて返しにくいサーブを再現するためです。相手が厳しいサーブを打ってきたら必ずしもいいリターンでなくてもよいとチャンコーチはアドバスします。そうすれば得意のストロークに持っていけると。

下半身強化|常に低く
もうひとつの課題は厳しいショットでコートの外に誘い出されたときの対応です。特訓に用意されていたのは腰につけるゴムでした。コートの後ろにある金網とひもで繋がっているゴムを腰に巻いてショットを打ちます。重心が高くなるとゴムによって後ろへ引っ張られてしまいます。姿勢を常に低く保つことで振り回されても素早く体勢を立て直せるようにするのが狙いでした。さらに踏ん張る力を養うため特別な器具を使った訓練も取り入れました。

チャンコーチはトップ選手になることで大変なことは研究され、その対策がすぐに他の選手に知れ渡ってしまうことだといいます。だから常に変化しなければトップ選手で居続けることはできないといいます。

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錦織選手が超えなければならないのが1年間トップに君臨し続けているノバク・ジョコビッチ選手です。ジョコビッチ選手は、コーチで元世界ランキング1位のボリス・ベッカー氏と錦織対策を進めてきました。

ローマ|ジョコビッチ再び
2015年5月のイタリア・ローマで開催されたツアー大会で、錦織選手の特訓の成果が試される時がやってきました。錦織選手は準々決勝で半年ぶりにジョコビッチ選手と対戦することとなりました。第1セット、ジョコビッチ選手が錦織封じのためにとった作戦は意外なものでした。サーブの際にボールの回転数を上げることでバウンドを高くし、小柄な錦織選手が打ち返しにくい高いボールを打ち込んでいたのです。錦織選手の体勢を崩すことで得意のストロークを封じ込めました。

第2セット、ジョコビッチのサービスゲームを取るチャンスが訪れた時に錦織選手は動きました。高いバウンドとなる前にボールをとらえることで体勢を崩しながらも打ち返し、得意のストロークでポイントを得ることに成功しました。チャンコーチとの特訓で鍛えた素早い反応と重心を低く保つための下半身で、第2セットを取り返すことに成功しました。

第3セット、ジョコビッチ選手はさらに高度な作戦をとってきました。それは錦織選手が得意な前で打つテニスをあえてさせるというものでした。ジョコビッチ選手は、錦織選手に左右に振られ一見返すのがやっとのように見えましたが、実はジョコビッチ選手は、錦織選手へのリターンを左右に打ち分けるのではなく、あえてリターンをコート中央に打ち返していました。それはコート中央からのショットは角度がつけにくいためにポイントを取る”決め球”を打ちにくいのです。ジョコビッチ選手は錦織選手の焦りを誘うのが狙いでした。そしてジョコビッチ選手が、隙を突いて放ったドロップショットに錦織選手は追いつけませんでした。それ以後、一度リズムが崩れ集中力を欠いた錦織選手はそのまま第3セットを奪われ敗れてしまいました。

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自信|マイケル・チャン
チャンコーチは、錦織選手とジョコビッチ選手の差はそれほど大きくないと感じています。差があるのは自信だといいます。トップ選手と戦うときにもっと自信をもって戦うことが必要で、全米オープンの時に気持ちを思い出して欲しいと語ります。

王者の条件|ジョコビッチ
ジョコビッチ選手は王者になるための条件をこう語りました。「錦織が王者の心を手に入れるために必要なのは、敗北をどう受け止めるかだと思う。私も飽きるほどの敗北と失敗を繰り返してきた。簡単なことではないが、敗北を目標へと向かう長い道のりの一部だと思えるかどうかが、王者になれるかどうかの差だと思う。そしてそれはすべて自分の心の持ち方次第なんだ。」


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posted by CYL at 09:55 | NHKスペシャル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする