2015年06月16日

NHK「オイコノミア」|時間がない人のための経済学

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NHK「オイコノミア」|
時間がない人のための経済学



今回のテーマは「忙しい」


日本人の多くが時間がないと感じています。そんな毎日を忙しく過ごしている日本人が抱える”忙しさ”について経済学から考えてみましょう。突然ですが、1週間の労働時間が最長40時間の場合、漁獲高がいちばん多いのはどのタイプでしょうか?

1、毎日8時間タイプ
2、目標漁獲高タイプ
3、大漁時集中タイプ

実際に漁師さんでは3番の大量時集中タイプが一番多く、ついで8時間タイプと続きます。時間に制限があるために魚がいないときに漁に出ることを避ける方がよいためです。

現在、又吉(お笑い芸人)さんはいま仕事がたくさんのあるで一生懸命働いている大漁時集中タイプの働き方をしています。又吉さんに限らず若手の芸能人や歌手は売れっ子になると寝る間もないくらい働き続けます。それは、賃金が一時的に高くなったときほど人はより多く働くという傾向があることを示しています。経済学では「異時点間代替」と呼ばれています。

「異時点間代替」とは、今行うか将来行うか行動する時期を変えることをいいます。たとえば今の収入が将来予想される収入よりも高いと考えた場合、いまは一生懸命働き将来は余暇を楽しもうと考えるようなことです。

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ゲストは売れっ子作家角田光代さん
作家の角田光代さんは、1990年小説「幸福な遊戯」でデビューし「対岸の彼女」で直木賞受賞しました。小説やエッセーなど著作多数のいまもっとも多忙な作家のひとりです。



時間がないことのメリットとデメリット


メリット|集中力が高まる

角田さんは現在月に10本のエッセイの仕事を抱えています。そんな角田さんは、忙しいからこそひらめくことがあるといいます。昔は1年に1作くらいしか小説を執筆していなかった角田さんは、執筆の時間も好きな時間に書いていたといいます。ある時から平日の9時〜5時までに区切って仕事をするようにしたところすごく書けるようになったといいます。忙しければ忙しいほど書きやすくなったという時期があったと語ります。

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作家にとってゆっくり書く時期とばんばん書いていく時期のふたつの時期があると考えていた角田さんは、ある時期に仕事をたくさん受けて締め切りだらけにしたそうです。すると短編ひとつ書くのが以前に比べてぐっと楽になったといいます。

又吉さんも、毎日2〜3つのお笑いライブに出ていたときは毎月新ネタを10本くらい書いていたが、いまでは新ネタを月に10本書くのは容易ではないといいます。


あるマーケティングの実験
片方のグループには期限付きのクーポン券、一方のグループには期限がないクーポン券を渡しどちらの利用者が多かったか調べてみました。すると期限がない方が利用者にとっては利用しやすいはずなのに、期限付きクーポン券の方が利用者が多かったのです。

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デメリット|トンネリング

作家の角田光代さんは、月の締め切りが28コを超えると日常生活に支障がでると語ります。それは経済学でいうところの「トンネリング」が関係していると思われます。トンネリングとは、トンネルの中にいると外が見えないように何かに集中していると他のことに意識がいかなくなってしまうことです。目先の欠乏に対処することだけに集中しその他のことをほったらかしにしてしまうのです。

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トンネリングが起こっていると人は物事の選択の仕方が普段とは違ってきます。角田さんの作家のお仕事を例にとってみると買い物、締め切り、友人との約束という3つの物事の選択があったとします。角田さんにトンネリングが起こっていなければどの用事から済ませるか合理的に判断し行動します。しかし、トンネリングが起こっていると頭の中には「締め切り」しかないという状態になってしまい、友人との約束がすっぽりと抜け落ちてしまったりするのです。

航空管制官と子育てに関する研究
飛行機を安全に運行させるための指示を行う航空管制官は、長時間にわたって認知力に負荷をかけるという状態になっています。管制官が忙しいときとそうではないときで自宅に帰ってからの子どもに接する態度を調べた研究があります。その結果は、仕事が忙しかったときは子どもを意味なく叱ったりするというこうとがわかったのです。普段はきっちとしている管制官でも仕事が忙しかったときはよくない躾をしたということです。

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忙しさ対策|スラッグ

たとえば旅行へ出かける際にあなたはどちらのカバンを選びますか?荷物が隙間なくおさまるとカバンか、それとも荷物に対して余裕がある大きめのカバン、どちらでしょうか。当たり前かもしれませんが、忙しさにはカバンの隙間のような余裕が必要です。実際に旅行でありがちなのが、隙間のないカバンで出かけ、帰りのお土産が入らなかったりします。経済学ではカバンの隙間のような余裕をスラックと呼びます。スラックとは、突発的に起こった出来事に対処するためのゆとりをもつことで、元来は「ゆるみ」「たるみ」を意味する英語です。

人は将来の計画に対して楽観的な傾向があります。締め切りがある仕事などでは、最初からスラックとして時間に余裕を設定しておけばスケジュールがくるわないのですが、スラックが少ないとひとつのスケジュールがずれたときに連動して他のスケジュールもずれてしまうことになります。

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経済学の窓|
強制的にスラッグをつくる企業の取り組み

日本人の睡眠時間の変化をみてみると年々、睡眠時間は減少していることがわかっています。一説には睡眠不足による経済損失は年間3.5兆円にのぼるともいわれています。そんな中、政府は国家公務員の長時間労働抑制を目指す取り組みをはじめることを発表しました。その取り組みのひとつが、いまでは多くの民間企業で取り入れている「早朝出勤」です。社内に人が少なく効率の上がる早朝に出勤し、夕方からの時間は家族や自分のために利用するというワークスタイルです。

又吉さんが訪れたある会社では、早朝出勤などの制度をつくり、忙しくならないように効率良く働く仕組みづくりに取り組んでいます。例えば、早朝出勤を促すために200名限定でモーニングおむすびを無料で配布しています。また、以前までは21時以降の仕事をする際に求めていた残業申請を18時以降と変更し、残業をしにくい環境にしています。

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さらに残業をなくすために、夕方から社内ミニコンサートやピラティスの教室、社内無料バーなどの仕組みをつくっています。このように強制的にスラックをつくることでミスが減って効率が上がるということを経験的に理解して、多くの企業が制度として整えはじめているのです。


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経済学とはどんな学問?

経済学は人々がどうしたら幸福になるのか、豊かになるかを考える学問です。そのためにどういう制度や社会の仕組みをつくったら良いのかを考えるのが一番の目的です。

昔は、お金だけを目標に生きている人々を題材にして学問がつくられたのですが、お金以外の人間的な側面もしっかり見ようということで、だんだん経済学も発展してきました。前述のトンネリングはもともとは心理学で研究されていた分野ですが、人間の行動のひとつとして経済学に取り入れて分析するように変わり、現在ではそれが「行動経済学」と呼ばれています。

行動経済学は、人間が必ずしも合理的に行動しないことに着目し、心理学や脳科学の知見などを取り入れ実証的に研究する新しい経済学です。


2015年6月15日放送NHK「オイコノミア」

posted by CYL at 17:04 | オイコノミア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする