TBS「夢の扉+」
筋肉研究の専門家
首都大学東京教授 藤井宣晴(48)さん
筋肉研究の専門家
首都大学東京教授 藤井宣晴(48)さん
いま筋肉の常識が変わろうとしています。筋肉の神秘を研究しその真理を追求をしているのが、首都大学東京教授の藤井宣晴(48)さんです。血糖値を下げるために筋肉の研究をはじめた藤井さん。そのきっかけは、ひとりのアメリカ人青年の言葉でした。
藤井さんが”健康を生む源の臓器”と呼ぶ筋肉は、病気を治したり、老化を防ぐ効果や寿命を延ばす効果などいま注目を集めている研究分野のひとつです。
筋肉細胞を分析
1台1億円するという質量分析器で筋肉の細胞に何があるのか分析します。波形のピークで示されたのは、ホルモンです。一般的にホルモンは臓器から分泌されるものです。肝臓からは血圧を調節するホルモンが分泌され、卵巣からは女性ホルモンが分泌されます。その分泌が減少すると更年期障害の原因にもなるとされています。いわば、健康を支えるのがホルモンです。
常識を変える発見
藤井さんは筋肉細胞から20種類のホルモンを発見しました。しかし最初は、信じられない、間違いではないかと思ったといいます。そのためその検証に時間を費やしました。それほど常識を変える発見だったのです。
驚きの機能
疲労やストレスで体がサビついてしまう現象、いわゆる老化ですが、そのサビを除去するホルモンが筋肉から分泌されていることがわかりました。(現在研究段階)そのホルモンを昆虫(ショウジョウバエ)に投与したところ寿命が25%延長したのです。
厚生労働省研究班調べによると筋力量が減ってしまった人は、維持した人に比べて呼吸器疾患による死亡率は2.6倍になるというデータもあります。
筋肉が生み出す物質で新薬を
内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラムに採択さ、藤井さんを中心とする国家プロジェクトが4年前から始まっています。
どんな病気に効果が
ガンの発症率の低下やアルツハイマー病、脳卒中、うつ病の予防、血糖値を下げる効果が期待されています。
血糖値と糖尿病
血糖値が上がると糖尿病や脳卒中、心筋梗塞になるリスクが高くなります。血糖値を下げる物質といえばインスリンです。インスリンの発見は90年前、1923年にノーベル生理学・医学賞を受賞したフレデリック・バンティングが発見しました。
世界初の発見
藤井さんはインスリンに頼らずに血糖値を下げる物質を筋肉から見つけだしました。発見にはあるひとりの患者との出会いがありました。
あるアメリカ人青年との出会い
10年前、アメリカで糖尿病研究を行っていた藤井さんが出会ったのがマークさん(29)でした。マークさんは19歳で糖尿病を発症し藤井さんの研究に協力をしていた患者のひとりでした。
注射、食事制限、運動
マークさんは、食事の前にインスリン注射をして急激な血糖値の上昇を予防します。その注射は1日4〜5回、食事の度に行います。量や回数を間違えると血糖値が下がりすぎてしまい気絶する危険性があります。
糖尿病人口は世界で3億9000万人、7杪に1人が死亡(2014年国際糖尿病連合調べ)している病気です。
注射の他には糖分が少ない野菜中心の食事をとり、血液中の糖分を薄めるため1日3リットルの水を飲みます。さらに、糖をエネルギーにして消費する運動も欠かすことができないのです。
マークさんの言葉がヒントに
マークさんが発した何気ない一言が藤井さんの研究に血潮が流れだしました。「サッカーをはじめたら体調がよくなりました。いつか、そのメカニズムを明らかにしてください 。」
運動で血糖値が下がるのはわかっているが、そのメカニズムはわかっていませんでした。解明するために目をつけたのが筋肉でした。その理由は心臓の筋肉である心筋を研究した経験からでした。心筋は心臓病の改善につながるホルモンを分泌しています。ならば全身の筋肉もなんらかの物質を発して血糖値を下げるのかもしれないと仮説を立てました。
仮説が正しければ、インスリン注射が不要となり医療費負担の軽減につながります。また、自分の筋肉で改善できるという希望が生まれます。
大きな壁が
藤井さんは、筋肉に関する文献を読み漁りました。すると大きな壁に突き当たりました。筋肉の中には運動することで活性化される物質が60種類以上もあったのです。どれが血糖値を下げる物質なのか突き止めることはまるで絡まった配線をたどるような困難な作業でした。ひとつひとつ検証するには莫大な研究費がかかります。しかし、だれもやっていない研究には大きな予算はありませんでした。
そんな時、藤井さんを支えたのはマークさんの言葉でした。そこには力があり、願いがあり、真理があると考えたのです。そして、人体のすべてを学び直したのです。
”研究とは真理を追求することで新しい発見をすること。教科書の中に新たな発見はない。”
AMPキナーゼに注目
糖尿病研究ではマイナーな物質AMPキナーゼに注目をしました。AMPキナーゼは、糖を体内に分配する役割を担っています。AMPキナーゼは、分配する糖の在庫がなくなると血液中から糖を調達し、その結果血糖値を下げることがわかったのです。
普段は眠っているAMPキナーゼですが、筋肉を動かすとスイッチが入り糖の取り込みが活発になるのです。
インスリンと同効果
血糖値を下げるインスリンは、血液中で糖を捉えエネルギーとして消費させるのに対して、AMPキナーゼは筋肉から糖を捕えエネルギーとして消費します。血糖値を下げる効果はほぼ同じです。
10年後の実用化を目指す
10年以内にAMPキナーゼを活性化させる新薬の開発を目指している藤井さんは、「糖を取り込む物質ということがわかっただけで、これから先にチャレンジが続く」と語ります。
AMPキナーゼの活性化法
少し早めのジョギングを10分するだけでOKです。運動が苦手なひとは、汗が出るか出ないか程度のスローなジョギングを30分行うことで同じ効果が得られます。また、仰向けに寝た状態でダンベルなどで疲労を感じる程度の運動でも効果が期待できます。
簡単な筋力アップ法
衰えやすい筋肉は、握力と下半身の筋肉です。筋力チェックと簡単な鍛錬法を伝授します。
握力
ビンのふたが開けられなくなったら要注意です。握力を鍛える簡単方法は、お風呂の湯船の中で握ったり開いたりを30回程度繰り返すだけです。
下半身の筋肉
片足立ちで靴下が履けない場合は要注意です。また、片膝立ちでふくらはぎの一番太い部分を両手で輪っかをつくって指が重なったら要注意(65歳以上の場合)です。下半身を鍛える簡単な方法は、歯磨きの時に背筋を伸ばして2分間爪先立ちして立ち続けるだけでOKです。